2019.07.12 ・  /

まな板と包丁

まな板の歴史や包丁との相性について説明しています。

まな板と包丁の相性

料理をする上で常に包丁の刃と接し続ける道具があります。そう、それは「まな板」です。日本の刃物文化を語る上ではこの「まな板」の進化も無視することはできません。日本の調理人が「板前」と呼ばれるのは、まな板の前に立つことからきていることを考えると、まな板の存在自体は包丁と同様に重要なものであることもよく分かります。

昔ながらの様々な木製まな板が使用されていますが、衛生面や合理性など様々な用件から新しい素材の「まな板」が生まれてきています。その中でも包丁の寿命を持たせるためには、この「まな板」の選択も非常に重要なのです。

常に包丁と相対する道具だからこそ、こだわりの包丁にはこだわりのまな板を用意してみませんか?

まな板の歴史と文化

まな板は供え物の台?

包丁式のイメージ
「訓蒙図」の包丁式の様子

まな板の歴史は意外にも古く、中国から伝わってきたとされています。弥生時代には既に木製のまな板を使っていたとされ、弥生時代の遺跡からまな板も発掘されています。まな板は「俎」または「俎板」と書くことができ、これはもともと食物分配という神聖な儀式に用いられていたもので、「俎」自体は「肉を置く台」という意味になり、生け贄を捧げるための供物台としての意味も持っています。このため当時の「まな板」は下駄のように足が付き、板自体も非常に厚いものが用いられていました。

また、当時は座った状態で調理を行うことが一般的だったこともその特徴的な形になった要因だとも言えます。この足の付いた「まな板」や特徴的な切り分けの作業は日本古来の伝統儀式でもある「包丁式」などでも見ることができます。

※画像は国立国会図書館に所蔵される「訓蒙図」の包丁式の様子で、現在ではまな板自体にこの足は無くなっていますが、この足が「鍋蓋」の取っ手と同様に反りや曲がり防止の作用も受け持っていたようです。

日本は農耕民族ということもあり、木の加工に優れていたことから木製の物を使用していましたが、ヨーロッパを中心とする海外では狩猟民族が多かったことから、石のまな板を使用している国も多く、このまな板の硬さによって求められる包丁の性能や、さらには食文化にも変化をもたらしてきたとも言えます。

最近では海外から様々なおしゃれなまな板などが入ってきていますが、刃物の性能の違いから日本製の包丁をそのまま使用すると刃を傷める原因になる場合も多く注意が必要です。逆に日本料理とともに日本の包丁が海外に知られるようになり、海外においても日本の包丁には刃当たりのいい日本の木製まな板を使用することが徐々に浸透してきています。

まな板を常用するのは東アジアのみ

箸と刺し身

実はまな板を厨房で常用するのは東アジアで、ヨーロッパやその他地域では定型のまな板を使用するという文化が元々ありませんでした。ヨーロッパではまな板を使用せず手持ちで食材を切断することも多く、まな板自体が存在しない国もあります。キッチントップ自体が大理石などの石でできている場合も多く、専用の板を用意しなくてもいいと言うこともあるようです。

海外ではカッティングボードやチョッピングボードなどの名称で用いられているものが一般的ですが、台所の必需品ではなく、カッティングボードはそのまま食卓に出すお皿としての意味合いも強い国もあります。

このまな板を常用する国は、箸文化を持つ国と不思議と一致しており、東洋の料理文化と西洋の料理文化の違いがこのまな板の存在からも伺い知ることができます。たとえば「板前」という職人の存在。西洋で修行として食材の切断を専門に受け持つ担当者がいる場合はありますが、包丁を使う作業はあくまでも全体の調理の内の一部としか認識されていません。これに対し日本料理では包丁を使用する作業自体は調理の花形とされ、調理者としても最も権威のある立場になっていることからもよく分かります。

また食卓にでてくる料理も、箸で既に取り分けられる状態にまで切りそろえられ供卓される点など、まな板が必要とされこれが一般化していることは、東洋と西洋の料理文化の違いがはっきりと現れている点の一つとも言えるのではないでしょうか。

中華はなぜ丸いまな板?

中国のまな板のイメージ
中国のまな板

中国ではまな板は丸い印象がありますが、中国でもまな板が誕生した当時は足付きの長方形が一般的でしたが、様々な食材を調理する文化が広がったことで、動物の骨を叩き切ることや食材を叩きつぶすような調理法が生まれました。

これにより中華料理特有の中華包丁が生まれてきましたが、この中華包丁自体は非常に大きく、さらに重量があるため、通常の木製板ではすぐ割れてしまうことが難点となりました。そこで消耗品の厚いまな板として、木を伐採したそのまま輪切りの木を使用することが一般化したといわれています。

しかし、中国ではこの丸いまな板しか使用していないのかというと実はそうではなく、一般の家庭では通常の四角いまな板も使用しており、丸と四角が混在しているのが実状のようです。特に内陸部などではキッチンなどはしっかりとしたものではなく、土間をそのまま利用している場合も多く、この場合は文字通り伐採した木をそのまま調理台兼用のまな板として使用していることが多いようです。

まな板選びの基本

ハガネ系には国産木製まな板が最適

ハガネ系包丁のように、硬度が高いものには国産の木製まな板が最適です。海外製の素材に比べても刃当たりがよく、重さもそれ程重くないものが多いことが特徴です。

国産でまな板用として使用されている素材は、特に水分吸収率の少ない軽い素材が主流で、通常の使用後に乾かすだけで乾燥でき、内部が腐蝕することもなく衛生的に使用できます。さらに檜やヒバなど天然の抗菌成分が含まれている素材もあり、天然由来成分が身体にも優しいこともメリットとしてあげられます。ただし、薬剤塗布やつけ置きなどには向いておらず、HACCP管理などには向いていません。

また表面が黒ずんだり痛んだ場合はカンナ掛けなどで表面を削る必要があるほか、板の性質により反りや歪みなどに注意した保管方法が必要の場合もあります。

衛生面を重視するのであればゴム系

HACCP対応や、衛生面を重視した現場や家庭などで使用する場合は合成ゴムやエラストマー樹脂などのゴム系素材を使用したまな板がお勧めです。刃当たりが非常に柔らかく、薬品塗布などの殺菌・滅菌処理にも対応していることが一番の特徴と言えます。]

また、素材自体に抗菌剤などを配合しさらに衛生面でもメリットが高いものも多くあり、最近では多層式の樹脂製まな板なども販売されており、木製まな板のように表面が劣化したら、めくって新しい面を使うことができるものもあります。ハガネ系包丁からステンレス系包丁にいたるまでオールラウンドに使用することができます。

同様の使用方法であればプラスチック製のものも販売されていますが、硬度が比較的高い場合も多いので、選択する際に硬さを確かめる必要があります。また刃当たりをよくするためや食材を滑りにくくするために、まな板表面にエンボス加工などが施されている場合は、逆に衛生面では良いものとは言えません。硬度の高いプラスチックまな板はステンレス系包丁などでは使用できますが、ハガネ系包丁やセラミック包丁には向いていません。

包丁の寿命が落ちるまな板?

海外からの輸入品などでガラス製や大理石製のカッティングボードなども販売されていますが、基本的にまな板と同様の使用方法を行うのであればお勧めはできません。日本のまな板のようにまな板と包丁が常に接するような使い方で用いると、刃先がすぐに劣化してしまいます。どうしても使用する場合は海外製の硬いカッティングボードなどはあくまでも調理用の下敷きとして考え、包丁が板に接する際には力を加えないなど注意が必要です。

まな板の使い分け

市販の木製のまな板や樹脂製のまな板でも、裏表を使用し一方を【肉魚用】、一方を【野菜用】と区分けして使用することを勧めています。これはやはり魚や肉の匂いが野菜に移る、または衛生的に問題があるなどの場合に有効な対応です。しかし、最も効率が良くまな板や包丁の寿命を延ばすためには、食材や使う包丁によって、硬さや素材の違う数枚のまな板を使い分ける方法がおすすめです。

出刃包丁などで魚を叩きにする調理を多く行う場合は厚めで若干硬いイチョウなどの木製を、野菜などは刃当たりの良い桐やゴム製のまな板を、皮むきなど果物用にはプレートとしても出せる小さな丸いまな板を用意するなどです。また、スペース的にまな板が1枚しか保管できない場合は、薄めのまな板シートや牛乳パック、厚手の広告などをまな板の上に敷いて、代用する方法もあります。