2019.07.12 ・  /

焼入れとは

鋼材を高温に熱する「焼入れ」の工程についての説明です。

焼き入れ工程について

どんなに優れた刃物用素材でもそのままでは包丁になりません。刃物用素材を高温(ハガネの場合780〜1100℃)に熱し、それを冷却することで金属の成分(鉄やその他の特殊元素)を活性化し、素材をより細かく接合することにより、硬度を増す作業を「焼き入れ」といいます。

しかし、鉄が主体のハガネやステンレスの中でも構成元素や構造によって焼き入れができないものもあり、洋食器などで知られる18-8ステンレス鋼は焼き入れができません。包丁には焼き入れのできる「炭素鋼系材料」を使用します。

焼き入れの基本

焼き入れには3つの工程があり、この一つが欠けたり不十分でも良い刃物はできません。「焼き入れ」は包丁の切れ味を支える要素である「素材」、「刃付け」と並ぶ包丁の命ともいうべき重要な工程です。

予熱

余熱

金属を急激に焼きの入る高温にさらすと「ひび」や「割れ」が生じます。それを防ぐために、いったん材料を低めの温度で温めます。藤次郎株式会社では、この余熱の工程にガス炉を使用しており、材料はこのガス炉によりじっくり温められ次の焼き入れに備えます。

また、当社ではこの余熱炉と焼き入れ炉は連続しており、大量の包丁の焼き入れが連続で行える設備となっています。

焼き入れ

焼き入れ

余熱が完了すると、ガス炉から電気炉へと移動し素材を1000℃以上にまで上げ、金属分子と炭素分子を活性化させます。まさに包丁に命が宿る瞬間です。この焼き入れ時には緻密な温度管理が不可欠で、夏場や冬場など季節によって、設定温度や焼き入れ炉に投入する時間の長さが決まっています。

このため当社では温度管理がしやすい連続電気炉を用い品質の均一化を図っています。また、この連続電気炉は一連の工程を20分程度で終了することができ、1日あたり15000〜20000丁の包丁材を焼き入れすることができます。

冷却

冷却

焼き入れ後の素材の温度を一気に下げることにより、それまで高温の中で活性化した金属分子炭素分子を固定します。焼き入れの際、活性化し微細になった分子レベルの素材がその状態で素材同士が結びつき、素材が緻密になることにより硬度が上がります。

素材により冷却の方法として空冷・液冷などがあり、ハガネなどの場合は油や水に入れて冷却する液冷を、ステンレス系の材料の場合は空気中で冷却する空冷を用います。また最近では液体窒素やドライアイスを用い、一気に0℃以下に下げることにより冷却するサブセロ処理なども用いられます。

冷却とサブゼロ処理

サブゼロ処理用冷却機
藤次郎株式会社のサブゼロ処理用冷却機

この焼き入れ工程は材料学的に説明すると、オーステナイトである材料を急冷しマルテンサイトにすることであり、マルテンサイト化した材料素材構造上安定し緻密であることが、素材の硬度を実現しているといえます。

しかし実はこの一連の工程では100%マルテンサイトに変化しているわけではありません。このときマルテンサイト化しなかったオーステナイトを残留オーステナイトといいます。この残留オーステナイトは非常に不安定な存在であり、時間が経つにつれてマルテンサイトへと変化していきます。

この経年変化時に素材の容積が変化し、素材のゆがみなどが発生する場合もあります。サブゼロ処理はこの経年変化を強制的に行うもので、0℃以下に冷却することにより残留オーステナイトを減らし、極限までマルテンサイト化します。これにより非常に精密な素材ができ上がるといえます。

サブゼロ処理は素材の均一性を上げ、経年処理による歪み等を減らすための熱処理の一つで、一部の包丁販売サイトにおいてはサブゼロ処理により硬度や靱性があがるという表記をしているサイトもありますが、サブゼロ処理により硬度や靱性が素材の元々持っている組成の性質以上に飛躍的に上がることはありません。