2019.07.12 ・  /

砥石の扱い方

砥石の扱い方、メンテナンス方法についての説明です。

知っているようで知らない砥石の正しい扱い方

基本的に「藤次郎」の包丁は一般的に販売されている人造砥石で刃をつけることが可能です。

弊社で製造している包丁は、ステンレス系・ハガネ系と様々な包丁がありますが、基本硬度は研ぎ直しを考慮した硬度設定を行っており、粉末ハイス鋼など超硬度が出る素材でも、あえてその素材の絶対硬度を無理矢理引き出すのではなく、使いやすさや研ぎ直しのしやすさを考えて、あえて絶対硬度よりも若干低い硬度設定を行って製造をしています。

いたずらに硬度を上げることは技術的に可能です。しかし「一般の人が手入れができない包丁は、製品としてあり得ない」という考えが「藤次郎」の商品には活きているのです。また包丁を扱うのと同時に砥石の扱い方もしっかりと覚えることで、包丁の性能をさらに引き出し、よりよい調理を行うことも可能です。

この章では、砥石のしっかりとした扱い方を学び、よい包丁もよい砥石も長持ちさせる秘訣をお教えいたします。

砥石の正しい扱い方

包丁の研ぎ方については「メンテナンス」の図解や動画を参考にしてください。

砥石を水に浸ける

まず、砥石は水に浸ける必要があります。最近の一部の人造砥石や天然砥石は水に浸ける必要はありませんが、常に研いでいる間に表面に水を補給する必要があります。特に使い方に指定が無い場合は、水を桶や器に入れすぐそばに用意しましょう。水に浸ける際は、その砥石の指定の時間の間浸けるようにしてください。

目安としては砥石を斜めにして、表面の水を落とした際に、表面の砥石の湿りが20秒以上保たれる状態が理想です。また濡れた雑巾などで表面を覆うことはあまりお勧めできません。砥石によっては乾燥を呼び逆効果になることもあります。

砥石は安定した平面に固定する

砥石は必ず滑らない安定した平面において使用します。ぐらぐらとした安定しない場所で使用すると、どのような技術を持ってしてもまともな刃が付きません。専用の研ぎ台や固定台、水桶とセットになった専用台などを使用することをお勧めします。また、専用台などが無い場合は濡れ雑巾を下に敷いて、砥石が滑るのを防いだ状態で使用する方法もあります。

研いでいる間は水の補給をする

水を含んだ砥石は、表面が潤った状態になっていますが、研ぎを始めると再び徐々に乾いていきます。この乾いた状態を「水切れ」といい、摩擦熱が発生し刃先にダメージを与えるほか、目詰まりも発生しやすくなります。少しづつ表面に水を補給するようにしましょう。

包丁を研ぎ始めると、砥石表面にドロドロとした黒い研ぎ汁が発生します。この研ぎ汁には、砥石の中に入っている砥粒が含まれており、刃物を効率よく研ぐためには絶対的に必要なものです。水を補給する際にこれを洗い流さないように気をつける必要があります。

粒度を変える場合はしっかりと洗う

荒砥石から中砥石、中砥石から仕上げ砥石など粒度の違う砥石で研ぎを変えていく場合は、砥石と包丁、そして手をしっかりと洗いましょう。包丁の刃先には元の砥石の砥粒がそのまま残っており、この砥粒が次に研ぐ砥石に悪い影響を与える場合があるからです。

特にダイヤモンド砥石などを併用する場合は注意が必要です。また、桶などに水を張り砥石を入れている場合は、この保管する水の中で別の粒度の砥粒が付着する場合もあります。可能であれば粒度ごとに桶を用意することをお勧めします。

砥石の保管

砥石は使用が終わったら、しっかりと表面の切りくずや研ぎ汁を綺麗に水で洗い流します。自然乾燥させたら、キズや表面の水平が取れているか確認の上、直射日光などの当たらない日陰で保管します。ケースがある場合はケースの中に無い場合は新聞紙などにくるんで保管します。

濡れたふきんなどでくるむと、次回の研ぎの水に浸ける時間が少なくてすむとアドバイスする方がいらっしゃいますが間違いです。長期間濡れた状態にしますと砥石自体が劣化し、砥粒の脱落や本体のヒビ、割れなどが発生する可能性があります。

砥石が欠けてしまったら

落下や接触などで砥石の一部が欠けてしまった場合は、欠けてしまった部分の角を丸く削り、刃物があたった場合にキズなどが発生しないように処理し使用します。台が付いていない人造砥石などは面を変えて使用することも可能です。

真っ二つに割れてしまったり、大きく欠けてしまった場合は通常通り使用することは難しくなります。樹脂や漆などで5面を固め、元のサイズにする方法もありますが、割れたヒビの部分が刃先にあたると刃先自体にダメージを生じさせる場合もあります。

サイズの小さな包丁を研ぐ場合に使用するか、面直し用の砥石として使用しましょう。場合によっては表面を角や円に削り彫刻刀用の砥石として使用することも可能です。

砥石の性能が落ちる原因

砥石は自分自身が減ることで研ぐ性能を発揮していきます。砥石は砥石入門で紹介したように、結合材の中に砥粒が存在し、この砥粒が刃物を削ることで刃物に刃をつけていきます。

砥粒は削れたり粉砕することでその性能を発揮していますが、新しい砥粒が出てこない限りこの性能は持続することはできません。この砥粒の状態が悪くなると砥石は本来の性能を発揮できなくなります。

目詰まり

目詰まり

砥粒と砥粒の間に切りくずや削れた砥粒自体が詰まっている状態です。刃物自体が砥粒の上を滑ったような状態になり、全く研げない状態です。

目こぼれ

目こぼれ

表面の砥粒が大部分抜け落ちて、新たな砥粒が出ていない状態になります。砥粒と切りくずにより結合材などの母材が削れないため、母材で刃物を撫でている状態になります。

目つぶれ

目つぶれ

表面の砥粒自体が摩耗し、角が立っていない状態です。砥粒が刃物自体に食い込まないため、無数の丸い砥粒の上で刃物を前後させることになり刃自体も劣化する可能性がある状態です。

砥石のメンテナンス

これらの砥石の状態を、本来の状態に戻すためにはもちろん定期的なメンテナンスが必要です。このメンテナンスにより本来の研ぎの性能を発揮させることで、さらに包丁の性能の安定を図る必要があるのです。

良い包丁の切れ味を保つには「良い砥石」の状態を保つことが必要なのです。

目立て (ドレッシング)

目詰まり・目こぼれ・目つぶれを解消し、切れ味を取り戻す作業です。目詰まりを起こしている場合はこの目詰まりの原因になっている切りくずや砥粒のクズを取り除きます。

目こぼれ・目つぶれが発生している場合は、母材である結合材を削りだし、砥粒を表面に出す必要があります。基本は粗目の砥石や名倉砥石などのドレッシング砥石で表面を削ることで、目詰まり・目こぼれ・目つぶれを解消できます。

面直し (ツルーイング)

砥石と面直し
砥石は使用するごとに、自分自身を削り落とすことで研削力を発揮します。手作業で研ぎ直しを行っていると、必ず研ぐ人のクセや研ぐ包丁によって、砥石も良くあたる場所とあたらない場所が出てきて、砥石の表面の水平が徐々に狂ってきます。

これを元の通りの平面に戻すことを面直しといいます。面直し専用の粗目の修正砥石や金剛砂を用い表面を削り落としていきます。もちろん削る側の修正砥石の表面も水平である必要があります。

修正砥石などが無い場合は同じ硬さ・粒度の砥石とお互いに擦り合わせる方法(共擦り)や、ブロック塀などに砥石を擦りつけて表面を削る方法も代用として行われます。

角落とし

面直しによって砥石の平面出しを行った後に、行うと良いことに角落としがあります。砥石の平面が出ると、砥石の四隅の角とフチが出来ます。この角を落とすことが角落としです。

この四隅の角とフチは直角に近ければ近いほど欠けが起きやすくなるほか、力の加え方によっては、包丁自体にこの四隅の角とフチによって刃先を痛めてしまう可能性があります。角を削り落とすことで保護できますが、余裕があれば丸みを持たせて削ることをお勧めします。

洗浄

日々の使用後には、砥石表面を洗浄する必要があります。包丁を研いだ後の砥石の表面には研いだ刃物の切りくずと、砥粒のクズがそのまま残っています。これを洗い流さずにそのままにしておくと目詰まりを起こす主原因になります。

表面を水と手でしっかりと洗い、研ぎクズの黒い表面の汚れを取り去りましょう。綺麗に取り去れない場合は前述の目立て(ドレッシング)を行う必要があります。