2022.10.01 ・  /

【大河津分水通水100周年】記念ナイフ開発ストーリー #02

大河津分水通水100周年を記念するナイフの制作ストーリー第二弾をご紹介します。

2022年8月25日、大河津分水は通水100周年を迎えます。
この節目を記念するナイフ制作第二弾として、藤次郎ナイフアトリエの職人・伊藤のナイフをご紹介します。

1 大河津分水に感謝を込めて

先の記事の松川と同じく、大河津分水をモチーフにナイフ製作を始めた伊藤。
「どうせなら、気になっていたナイフに取り組もう」と、フィンランドの伝統的なナイフである「プーッコ」をベースとすることにしました。

最初にはっきりと完成形をイメージせず、実際に手を動かす中で生まれたアイディアを次々に加えていくスタイルで、ナイフ製作はスタートしました。
刃物製作が仕事であり、趣味であり、多彩な引き出しを持っている伊藤だからこそできる、ユニークな進め方です。

2 大河津分水の全景を表現した刀身

まず取り掛かったのは、刀身です。
伊藤はもともと、大河津分水路が逆ノの字を描きながら日本海へと流れていくとき、下流に向けて先細り気味な形状になっていることが面白いと考えていました。

そこで、刀身の根元を信濃川の本流と見立て、分水路のように、緩やかなノの字を描くスエッジを付けることで、刀身全体で「本流に人工の水路が付加されている」大河津分水の姿を表すことにしました。

刀身を部分焼き入れすることで現れる波紋により、雄大な水面の雰囲気も醸し出しています。

平時の大河津分水の様子

スエッジは、刀身上部を切っ先に向けて細くしている一部分のこと。
貫通力を高めたり、刀身の重量をわずかに減らし、ナイフ全体の重心をずらすために使われる。

ここで最も苦労したのは、表面に黒い模様を出したこと。
ただきれいな刀身にしたのでは、さまざまな自然の脅威とともにあった100年の歴史が表せないと思い、表面を腐食させて重々しい模様を出したのですが、思ったより腐食が深く進むなどして、4回もやり直す事態となりました。

3 ハンドルは、洗堰らしく

大河津洗堰

大河津洗堰。信濃川本川に流す水量をコントロールしています。

大河津分水を象徴するもののひとつ、大河津洗堰はハンドルの形状で表現することに。
膨大な川の流れをコントロールする洗堰は、水に負けない強大さがあると同時に、流れを妨げない美しい形状が際立つ建造物です。
そのゲートの様子をハンドルデザインに落とし込み、側面は平に、Rが付いた部分は歪みのない美しいカーブを描けるよう、注意深く作り上げました。

大河津分水通水100周年記念ナイフのハンドル

光があたると、丁寧に仕上げた様子が際立ちます。

刀身の製作においては、水面が揺れる感じをイメージして自然な波紋を出しましたが、これと対照的に、ハンドル製作では自然らしさを排し、人工物らしい正確さが出るよう心がけました。
ハンドルを光に照らしたとき、真っ直ぐに光の筋ができるよう、丁寧に仕上げています。

大河津分水通水100周年記念ナイフのハンドル

4 通水100年の歴史に敬意を込めて

ナイフ製作全体において心がけたことは、「新しいナイフにしないこと」。
100年という歴史の重さを感じられるよう工夫を凝らしました。

例えば、鍛造工程においては、フィンランドの伝統的な鍛造方法を採用。
鋼材は、クロムやタングステンが入った、ギラギラとした格好良さのあるものではなく、白紙鋼を使用し、鈍い輝きを持たせました。
また、ハンドルや鞘の素材は、あえて若干の色ムラを出したり、革の部分に傷をつけたり、このナイフを100年使い続けたらこんな風になるだろうか、と想像しながら加工を施していきました。

5 「百壱」の完成

大河津分水通水100周年記念「百壱」

細部まで大河津分水らしさを詰め込んだナイフが完成しました。
しかしそれだけではなく、自分が格好いいと思える要素もたくさん取り込んだと言います。
口金部分には鎚目を入れた真鍮を使い、木と革製のさやは、収納時に刀身がさやに当たらないよう加工し、数々のこだわりが散りばめられています。

最も注目して欲しいポイントは、きれいさと重々しさが共存する刀身です。
苦労しただけあり、川のさまざまな表情を絶妙なバランスで表現しています。

タイトルを聞くと、「百壱」と即答。
100年の歴史を経て、101年目を迎えるから、とのことです。

大河津分水通水100周年記念ナイフの口金

6 「苦労は買ってでもしよう」

先の記事では、このナイフ製作を担当したのは松川と書きましたが、実は松川・伊藤の二人が製作にかかっていました。
しかし、伊藤のナイフは鋼材の焼き入れに一度失敗したため、修正を試みる中で通水記念の8月25日を迎えることとなりました。
他の仕事の状況を鑑み、一時は製作を諦めざるを得ない状況に追い込まれていたのです。

しかし、作り始めたナイフをそのまま諦めることはしませんでした。
「今の状況でナイフを完成まで持っていくのは大変だけど、今後、このナイフは作り直したいし、後でやるなら今やっても同じ。それに、若いうちは苦労を買ってでもやれと言われるから、買ってでもやる気持ちで取り掛かろうかなと思った」と、懸命に製作に励むことに。

少々遅くなりましたが、通水100周年を記念する今年中に、晴れてお披露目することができ、本当によかったと思っています。

「ウグイナイフ」及び「百壱」は、10月3日(月)まで藤次郎ナイフギャラリーで展示した後、信濃川大河津資料館で展示することになりました。
展示期間は、10月4日(火)〜11月27日(日)となります。
皆様、是非足をお運びください。

※製作したナイフの販売は行っておりません。予めご了承ください。

 


 
藤次郎オープンファクトリー

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