2019.07.12 ・  /

ハガネの科学

様々な種類があるハガネのそれぞれの特性や、鉄と鋼の違いについて説明しています。

ハガネと一概にいっても、様々な種類があります。一般的にハガネと呼ばれるものは、炭素などを用い鉄を精錬・製鋼したものです。
鉄から生まれる材料には他にも様々なものがありますが、ほとんどが鉄を主材料とし、各種成分の調整を行うことで特性を変えたものであり、鉄を主体にした材料は全て親戚といえます。ステンレスもその一種になります。

鋼とステンレスは兄弟、鉄はその親である

鉄も鋼(ハガネ)もステンレスも鉄を主成分にした材料です。
実は、世の中に純粋な鉄はほとんど存在していません。鉄は非常に化学変化を起こしやすく、他の物質と結びついた形で存在しています。

鉄を作るための原料である鉄鉱石や砂鉄は、鉄(Fe)と酸素(O)の化合物、酸化鉄(FeO)として存在しています。また、酸素(O)以外にも鉄鉱石や砂鉄の状態では少量のケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などの不純物を含んでいて、硬いけれどもろく材料としては使い物になりません。

ちなみに、刃物の材料として有名なスウェーデン鋼石などは、元々の状態でこうした不純物が非常に少ない鋼の母材です。

このため、材料に使用するためには、酸素(O)および素材がもろくなる原因となる少量のケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などの不純物を取り除かなくてはなりません。

まず、酸素(O)を取り除くために炭素(C)のように酸素(O)と結合しやすい元素を還元剤に用いて、1500度程度の高温で反応させることにより鉄を分離させ、銑鉄を作ります。これが製錬工程で、古くは多々良などの釜を用い砂鉄から玉鋼をつくる工程で、近代的製鉄法では高炉によって行います。

その上で、刃物や構造材など強度が必要な製品にするには、製錬工程で必要以上に混ざった炭素(C)をはじめとする不純物を減らさなければならず、そのために再度酸化精錬して溶鋼を作ります。これが製鋼工程で、昔は鍛冶が、今では転炉・平炉によって行います。この工程で炭素をはじめ他の元素を調節し、あるいはニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、その他の元素を人為的に加えたりして、鋼塊にします。

鉄と鋼の違いは、主に炭素含有量によって分類されます。
刃物に使用される鋼(ハガネ)は炭素含有量が0.08〜2.0%で、それ以下の材料は鍛鉄または軟鉄と呼ばれ、柔らかく、焼き入れしても硬化しない材料です。鋼(ハガネ)以上に炭素(C)を含む材料は銑鉄または鋳鉄で、硬く脆いので鋳物の材料などに使用されます。

また、ステンレス鋼は、鋼の錆びやすい欠点を改善するためクロム(Cr)を12%以上加えた合金鋼で、さらに必要に応じてニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などを配合しており、錆に強く、耐摩耗性に優れています。ただし元の鋼(ハガネ)の炭素量により、焼き入れできる材料・できない材料とに分別され、洋食器などで広く使用されている18-8ステンレス鋼などは焼き入れしても硬くなりません。

ステンレス鋼は鉄の含有成分を調整した物で、鉄と全く違う材料というわけではありません。あくまでも鉄を調整した錆びにくい材料であり、錆びない材料ではありません。
また、ステンレス鋼の中でも炭素を含む焼き入れが可能な材料は、基本的に含まない材料よりも錆びやすいため、特に包丁は手入れに注意が必要です。

成分と鋼の特性

鋼(ハガネ)やステンレス鋼は、内部の成分の配合の比率を調整することで、様々な特性に合わせた多種の素材を作りあげます。
以下の表では、ハガネに加えることで、素性が変化する元素を簡単にまとめました。

炭素 (C) 様々な元素と化合物を作り、硬さ強度を増す。オーステナイト結晶境界にクロム炭化物を析出し、粒界腐食を起こす。強力なオーステナイト化元素。
ケイ素 (Si) フェライト化元素であり、耐酸化性を増すが大量に加えると粘り強さが低下する。脱酸剤として使用される。
マンガン (Mn) セレン(Se)などと化合物を作り、被削性を増すので快削材に添加される。赤熱脆性を防止する。オーステナイト化元素でニッケル(Ni)の約半分の効力がある。ステンレス鋼の窒素(N)の吸収力を向上する。
リン (P) 熱間加工性を害し、機械的性質を劣化する。オーステナイト系鋼では適量の配合で熱間強度を増加させる。
硫黄 (S) 熱間加工性を害し、マンガン(Mn)、テルル(Te)、モリブデン(Mo)などと化合物を作り被削性を増す。
銅 (Cu) オーステナイト化元素。硫酸イオンに対し耐食性を改善する。析出硬化を示し強度を増す。ただし熱間加工性を害する。
ニッケル (Ni) オーステナイトステンレスの基本元素であり耐食性、熱間強度を増す。
クロム (Cr) ステンレス鋼における基本元素。フェライト化元素で12%以上加えると耐食性を著しく増す。また、熱間強度も向上させる。
ジルコニウム (Zr) チタン(Ti)と似た性質でフェライト化元素。硫黄(S)と化合物を作り被削性を増す。種々の化合物を作り熱間強度を増す。結晶の微細化にも貢献。脱硫黄効果が大きく、赤熱脆性を防止する。
ニオブ (Nb) 強力なフェライト化元素。炭化物を作りオーステナイトステンレス鋼の粒界腐食を防止する。耐クリープ性、熱間強度を増し、結晶粒度を微細化する。靭性を改善する。
テルル (Te) セレン(Se)の親戚の元素。被削性を増すが熱間加工性を害する。
鉛 (Pb) 被削性を増すがオーステナイトステンレス鋼では熱間加工性を困難にする。
アルミニウム (Al) 強力なフェライト化元素。ニッケル(Ni)などと金属間化合物を作り析出硬化を起こし強度を増す。13Crステンレス鋼に添加すると溶接割れを防ぎ、耐酸化性を増す。耐酸化性を増し脱酸剤としても使用される。
酸素 (O) 酸化物を作り加工性を害する。強度や靭性も害する。
窒素 (N) 強力なオーステナイト化元素。オーステナイト鋼の耐食性を上昇させる。高温強度を増すが、低温での靭性を害する。
水素 (H) 高ニッケル(Ni)ステンレス鋼の溶鋼中に多量に溶け込み、凝固時析出、ピンホールを形成しやすい。熱間加工時の毛割れの原因にもなる。
モリブデン (Mo) 被炭化物を作り焼き戻し抵抗性を増す。熱間強度、耐クリープ性をを増す。硝酸イオンに対し耐食性を改善する。
バナジウム (V) 強力なフェライト化元素。焼き戻し抵抗性を増す。二次硬化を示し、粘り・強度を増す。高炭素ステンレス鋼においては結晶粒度を微細化する。炭化物を作り耐クリープ性を改善する。
タングステン (W) 強力な炭化物を作り、焼き戻し抵抗性、強度、熱間硬度を増す。高速度鋼などに用いられる。
コバルト (Co) 著しく耐クリープ性を増す。素地を硬化し炭化物の脱落防止に寄与する。
ヒ素 (As) 熱間加工性を害する。
錫 (Sn) 熱間加工性を害する。
ボロン (B) 粒界に析出し熱間強度を増す。添加量が微量で過時効を抑制し耐クリープ性を増す。酸素(O)と窒素(N)との親和力が強く、安定した添加が難しい。結晶粒微細化、熱間硬化性を向上させる。
チタン (Ti) 強力なフェライト元素で安定した炭化物を作り、オーステナイトステンレス鋼の粒界腐食を防止する。炭化物、金属間化合物を作り耐クリープ性強度を増す。析出硬化して強度を増す。結晶粒を微細化する。酸素(O)、窒素(N)と化合しやすく清浄度を害しやすい。
セレン (Se) 被削性を増す。