藤次郎株式会社では、包丁の材料として様々な材料を使用しています。材料には得手不得手が必ず存在し、適材適所の材料を用いることが最も重要なことだからです。
ここでは、藤次郎株式会社が通常用いる材料を中心に、刃物に用いられる材料の種類や特性をご紹介します。
和包丁などに使用されます。JIS規格で規定された炭素含有量0.6%以上の鋼材で工具鋼や刃物鋼などが一般的です。炭素含有量などにより、様々な用途に合わせた炭素鋼が細かく規定されています。
包丁用としては多々良などで作られた伝統の「玉鋼(たまはがね)」の製法を、日立金属株式会社が大量生産できるよう改良を重ねて製造した材料、安来鋼(YSSヤスキハガネ)が主流になっています。
刃物用として非常に優れた材料で、不純物の量や、特殊金属の配合により様々なグレードに分かれ、下のグレードから黄紙、白紙、青紙があり、一般的に業務用には白紙以上のグレードを使用します。白紙鋼ではHRC硬度(材料硬度の基準)でHRC62±1程度、青紙鋼ではHRC64±1程度が、切れ味と研ぎ直しのしやすさのバランスが取れた材料であると言えます。
“Steel(ハガネ)”と”Kougu(工具)”の頭文字よりSK材ともいいます。SK材はJISで規定されている一般的に焼き入れを行う工具などに使用される材料です。炭素量0.6%以上を配合した鋼材で、JIS規格で11種類に細かく区分けされている中、特にSK-85材 (旧SK-5)などが家庭用包丁に使用されます。
このSK材をベースに、冷間金型などに使用するSKD材やドリルなどに使用する高速度鋼SKH材などが開発されており、このような特殊炭素鋼は包丁に用いられることもあります。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
○ | ○ | △ | △ | × | ◎ | × | 家庭用 | 58±2 |
黄紙鋼は、SK材の組成をベースに50%程度の純度の高い砂鉄を加えて作り上げたハガネ材になります。成分としては鉄(Fe)、炭素(C)に微量の不純物(リン・イオウなど)が混ざっています。SK材に比べこの不純物が大変少なく、優れていますが、不純物は含まれているため、一般的に家庭向けの包丁や鎌、鍬などの絶対的な耐久性が求められない刃物に使用されることが多い材料です。現在は黄紙2号(炭素の含有量が1.05〜1.15%)のみが生産されています。
黄紙鋼で作った包丁の特徴としては、SK材などに比べ切れ味に優れますが、耐久性や耐錆性などはそれ程変わりません。砥石で鋭利な刃が付き、製造上焼き入れが楽なので、比較的安価に刃物を作ることができ、家庭向けの和包丁や全鋼の洋包丁等で使用されます。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ○ | △ | × | × | ◎ | × | 家庭用 | 58±2 |
白紙鋼は、全てを安来の砂鉄系の材料を採用したハガネ系材料で、黄紙鋼に比べると不純物を極限まで減少させた素材となります。不純物が大変少ない優れた材料ですが、硬度を増すための焼入れのタイミングは幾分シビアで、職人の腕の差が出やすいという特徴があります。
白紙鋼には炭素の含有量により白紙1号(1.25〜1.35%)、白紙2号(1.05〜1.15%)、白紙3号(0.80〜0.90%)、白紙鋸材があり(0.90〜1.00%)、硬度と切れ味、砥石との相性の良さから、業務用包丁としては一般的に白紙2号が多く用いられるようです。
白紙鋼で作った包丁の特徴としては、ステンレスより硬度が高くシャープな切れ味を持っている反面、もろく、欠けやすい欠点があります。しかし砥石で研ぎやすく、切れ味と取扱いのバランスが良いハガネと言えます。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ◎ | △ | △ | △ | ◎ | × | 業務用 家庭用 |
60±1 |
青紙鋼は、純度の高い白紙2号にクロム(Cr)、タングステン(W)を添加した材料です。クロムは粘り強さ、タングステンは耐摩耗性のアップに重要な役割を果たします。
また硬度のある金属炭化物が含まれており、摩耗しにくく永切れする包丁ができます。炭素量の含有量の違いで青紙1号(1.25〜1.35)、青紙2号(1.05〜1.15)、そして炭素量の他添加物を増やし特殊溶解させた青紙スーパー(1.40〜1.50)などがあります。
青紙鋼は、白紙鋼の欠点である焼入れのシビアさがないので均一な硬度を保ちやすく、粘り強さがあるので白紙鋼に比べ若干欠けにくい特徴を持ちます。しかし全体的に硬く靱性があるので研ぎ直ししにくい面も見られます。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | × | 業務用 プロ用 |
62±1 |
鋼(ハガネ)に前述のクロムを加えることで錆びにくくした材料で、特に焼き入れできるよう炭素を含んだ特殊ステンレス鋼が使用されます。元の鉄の純度により性質が変わります。大量生産されており、安価な材料から高級材料まで範囲が広いのが特徴です。
純度の高いステンレス鋼にモリブデン(Mo)を加えると耐摩耗性があがり、バナジウム(V)を加えると粘りが出るなど、さまざまな材料が開発されています。
藤次郎株式会社では、一般的なステンレス刃物鋼ではHRC52±1、モリブデンバナジウム鋼ではHRC56±1、コバルト合金鋼などはHRC58±1程度を硬度の基準としており、刃物としての扱いやすさと切れ味が両立するよう硬度を設定しています。
刃物に使用されるステンレス鋼は、通常のステンレス鋼と段違いの硬度が求められます。そのため焼き入れ工程を必要とします。この焼き入れ工程で、もろさが出ないよう様々な元素の量を調整した材料をステンレス刃物鋼といいます。
ステンレスとしての組成に欠かせないクロムを含むと、摩耗に対して強くなり、サビに対する耐性も付きます。切れ味に関しては、ハガネ系には敵わないものの、一般家庭での使用では支障がない切れ味を有します。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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△ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | ◎ | 家庭用 | 52±1 |
モリブデンバナジウム鋼はその名の通り、ステンレス刃物鋼に、焼き入れ時には温度上昇に対し硬さや強さに影響が出にくくなるモリブデン(Mo)を、焼き戻し時には柔らかくなることを防ぎ粘り強くなるバナジウム(V)を添加し、耐摩耗性と粘り強さを飛躍的に向上させた材料です。
モリブデンを添加すると、温度上昇に対して硬さや強さに影響が出にくくなり、サビにも強くなるので、医療業界でもメスの材料として使用されています。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | △ | ○ | 業務用 家庭用 |
56±1 |
コバルト合金鋼はもともとスウェーデンで産出した高純度の鉄鉱石を、低温ガス還元法(ヘネガス法)という特殊な精錬法を用いて不純物を取り除き、多種の希少金属と組み合わせ製鋼した特殊ステンレス刃物鋼です。
不純物がきわめて少なく、コバルトが含まれていることにより素地が非常に硬く、切れ味・耐摩耗性に優れ、モリブデンが含まれているので弾力性に優れ、折れにくいという特性を持っています。ハガネ材と比較すると切れ味の面で多少は劣りますが、サビにも比較的強く、刃物用の材料としては、最適ともいえる素材です。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ◎ | ○ | △ | △ | ◎ | ○ | 業務用 家庭用 |
58±1 |
材料の不純物が少ないと硬度が出ることは前述しましたが、この不純物を取り除くために、溶鉱炉によって製鋼するのではなく、細かい粉末状の材料を一気に焼き固めるという特殊な製法、粉末冶金製法を用いて製造した鋼(ハガネ)が粉末鋼です。非常に硬く、微細な組織が特徴の材料です。常温で使用しても耐磨耗製に非常に優れています。
金属切削に用いられる高速度工具鋼などは炭化物が大量に含まれており、高速切削時に発熱し赤くなっても焼きが戻らない特徴があります。従来、組織が粗く、包丁に用いられることはありませんでしたが、粉末冶金技術により、組織が微細に仕上げられ、包丁に利用されるようになりました。
メーカーによって様々な名称がつけられていますが、高速度工具鋼のハイスピード鋼という別名から、略して粉末ハイス鋼とされることが一般的です。硬度はHRC64±1です。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | △ | △ | 業務用 家庭用 |
64±1 |
鋼(ハガネ)やステンレス鋼などの特性を生かすために、異種材料を貼り合わせて鍛造または圧延加工して製造された材料です。
接合時に材料間で炭素の移動現象や異種金属間の電子移動などによる腐食(錆)が起こるため、非常に難しい材料製法ですが、藤次郎株式会社ではDP法(内部脱炭防止法)と呼ばれるまったく新しい金属の接合法を開発し、鋼(ハガネ)の性質を落とすことなくステンレス鋼を貼り合わせることが可能になりました。
鋼(ハガネ)製包丁の切れ味や研ぎやすさと、ステンレス鋼製包丁の手入れのしやすさや折れにくさが融合した優れた材料です。一般的に割込み包丁と呼ばれています。藤次郎製品の中でも、37層のDP霞流し鋼や63層のニッケルダマスカス鋼など、多層化されダマスカス模様が美しい包丁が海外でも非常に人気となっています。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 業務用 家庭用 |
ー |
※上記表は目安で、硬度や硬さなどは複合する材料により変わります。
最近の技術開発により、さまざまな材料が刃物に使用されています。セラミックもその一つです。ジルコニアを主原料とするジルコニア・セラミックスは高硬度、高靭性(粘り強さ)を誇ります。
また、鋼ではないので錆とも無縁で、金属アレルギーの方でも使用できる利点があります。ただし非常に硬いため脆い一面もあり、また通常の砥石では刃付けができず、高速回転するダイヤモンド砥石で研がなくてはなりません。
硬 さ | 切れ味 | 持続性 | 脆 さ | 錆 | 研ぎ直し | 研ぎ器 | 用 途 | HRC硬度 |
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◎ | ○ | △ | × | ◎ | × | × | 家庭用 | 74±1* |
*京セラ株式会社が表記しているモース硬度9をHRC硬度に換算した数値です。
最近では、チタンやプラスチックなどを使用した包丁も開発されています。
また、業務用の大きなものを大量に切断する作業が必要な現場では、水を高速に吹き出しその力で切断するウォーターカッターや、空気の力で切るエアカッター、レーザー光で焼き切るレーザーカッターなども開発され使用されています。