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日本の刃物文化に合わせて育まれた木のまな板。硬度が高く切れ味を重視する包丁に対し、絶妙なサポートをすることは海外のまな板と比べても最もメリットとしてあげられることではないでしょうか。
様々な木材が用いられますが、その木材ごとに特徴や使い心地が変わってくるため、自分に合った物をしっかりと選ぶ必要があります。
檜はヒノキ族ヒノキ科の針葉樹。日本と台湾にのみ分布し、古くから建材として利用されてきた材料です。しっかりとした木目が通っていることから、斧で割りやすく加工が容易で、加工後の狂いが少ないことも特徴としてあげられ、独特の強い芳香があります。
自然の抗菌剤とされるヒノキチオールが有名ですが、国産のヒノキにはこの成分が多くは含まれていないので注意が必要です。産地としては木曽ヒノキ、四万十ヒノキ、吉野ヒノキなど。
適度の柔らかさで刃渡りが非常に良いこと、乾燥に強く水切れに優れることから、まな板材として多く利用されています。ハガネ系・ステンレス系・セラミックなどほとんどの包丁に良い相性です。
ヒノキ科アスナロ族に属す針葉樹で、日本にのみ分布しています。県により様々な呼び名がありますが、青森に分布するヒバが一般的に有名で、こちらはヒノキアスナロとして分類されます。
独特の強い芳香が特徴で、こちらもヒノキと同様に建材として使用されており、ヒノキと比べてもカラマツなどに近い硬目の材料です。
ヒノキチオールを多く含み、シロアリにも強く殺菌効果があることから、まな板としても抗菌効果が期待できます。刃当たりがよく適度の硬さがあり、耐水性もあり腐りにくいことから、食材や包丁を選ばず万能に使用できるまな板材です。ハガネ系・ステンレス系・セラミックなどほとんどの包丁に良い相性です。
裸子植物門イチョウ綱の唯一の種で中国原産の落葉高木。加工性に優れており歪みが出にくいので、家具などに多く用いられているほか、碁盤や将棋盤などに多く用いられる材料です。
適度な油を含んだ材質で水はけがよく、古くからまな板用の材料として最適といわれています。材質は均一で比較的柔らかく復元性があるので、まな板材の中でも最も刃当たりがよいとされています。
ただし抗菌作用などは無いため、防腐加工などがされていない場合はカビなどが発生する可能性があり、またイチョウ独特の香りがあります。ほとんどの包丁と相性が良い材料ですが、特にハガネとの相性は抜群とされています。
ゴマノハグサ科キリ属の落葉広葉樹。日本国内で伐採される木材としては最も軽く、湿気を通さず発火しづらいという特徴から、箪笥や衣装箱などの高級家具などをはじめ、金庫の内張などにも使用されます。
割れや狂いも少なく、その軽さからまな板として利用されることも多くなりました。刃当たりが非常に軽く、乾きが早いこと、復元力があることも特徴です。
ほとんどの包丁と相性はいいですが、素材自体が柔らかいため細かい刻みや、みじん切り、叩きなどを行うと表面のキズが復元しない場合があります。
ヤナギ科ヤナギ属の落葉高木。北半球に広く分布し、様々な亜種が多く特色がそれぞれ違いますが、ほぼ全体的に弾力があり曲がりながら成長することから、日本ではほとんど建材としては使用されていませんが、古くから高級まな板として使用されてきました。
真っすぐ伸びないことから、目が曲がりくねったものが多いのですが、繊維が柔らかく素材自体が緻密なため、部分的な刃の当たりの変化が少なく、適度な弾力で独特な刃当たりと刃離れが特徴です。
加工自体を行っているところが少ないため、流通しているまな板が高額なことが多く、一生ものとして板前さんなどプロの方に好まれる材質です。弾力があるのでハガネ材の包丁との相性が抜群といわれています。
ニレ科ケヤキ属の落葉高木。東アジアと日本に分布しており、成長すると25mを超える大木になる場合もあります。一般的に木目が美しいとされ、建材として最も優れた材料とされていますが、伐採してから狂いや反りが落ち着くまで、乾時間がかかる材料です。
芯材が黄褐色で辺材の白と明確に色が違うこと、年輪がはっきりとしていて光沢があることが特徴で、材質は硬く摩耗に強いことから、硬度の高い包丁には合わず、ステンレス系包丁に使用するか、出刃の叩きや中華包丁での使用に向いた材質です。
モクレン科モクレン族の落葉高木。日本全国に分布しており、高さ30mほどの巨木になります。建材としては使用されていませんが、ヤニも出にくく加工しやすいので、下駄や刀の鞘、和庖丁の柄やサヤなどの加工品材料に使用されます。
このため市場によく出回っており比較的安価に手に入れやすいことがあげられます。材質は適度の硬さで刃当たりがよい一般的なまな板です。反りやカビなどが発生する可能性があり、しっかりとしたお手入れが必要です。ハガネ系・ステンレス系・セラミックなどほとんどの包丁に良い相性です。
原木から切り出す際、年輪の目に対して板材を切り出しますが、その位置によって木目が変わるほか強度や反りなどにも影響します。特に木は成長する上で夏場と冬場で成長するスピードが違うため、夏場の成長期の軟らかい夏目と、成長せず寒さに耐える時期の硬い冬目が交互に現れ、年輪を形成します。
また、木は成長とともに中心部が堅く、樹皮に近くなるごとに軟らかい2層の状態となっているため、この特質に合わせて材料を使用していきます。同じ木材でも堅さが違う部分が発生するのはこのためです。
板を製材する際に木の中心部に対し樹皮側から直角に切り出すと、年輪の筋が板と平行に並び縞模様になります。この切り方を「柾目(まさめ)」といい、収縮や変形が少ないことが特徴ですが、大きい板を切り出すには樹齢の高い原木が必要となること、また原木から取れる枚数が限られ非常に高価です。
また「柾目」の中でも樹芯部から放射線状に位置する柾目を「本柾目」、放射線状からずれた位置の柾目を「追柾目」と呼びます。
それに対し、中心部から離れた位置で中心部に対し平行に製材したものは「板目(いため)」といい、年輪の筋が大きな湾曲線を描くのが特徴で、木目の波紋が出る形です。
板目の場合は板に裏表が存在し、木の中心部に近い方が裏面になるため収縮や変形が起きやすい材料です。前述の木の内部の構造の通り、樹皮に近い方が軟らかいことから、経年変化で板の反りが発生し、無理に直そうとすると割れや亀裂が入る可能性があります。
しかし、年輪が板を覆うような配置になることから水分などの浸透に強いことが特徴とされます。ちなみに海外材など波紋がたくさん入り、まだら模様などが出ている模様の特殊な木材を製材したものは「杢目 (もくめ)」と呼ばれ、オリーブやメープルウッドなどの素材で見られます。装飾性が高いのが特徴です。
もちろん板の反りなどの性質をよく考え目や材質を選ぶ必要があり、一般的に「柾目」が良いとされますが、既に木曽ヒノキの大きな柾目のまな板なども少なくなっており、「柾目」自体が高価なものも増えています。普段使いであれば「板目」を選んでも、扱いさえ間違わなければ「柾目」と同様に良いまな板として使用できます。
また目の向きだけではなく目の細かさなども検討材料の一つと考える必要があります。硬い冬目が多く入っている場合、この冬目で刃先が痛む場合もあります。特に硬めの木材を選ぶ場合は、この冬目の入り方もよく見て選ぶ必要があります。
1本の木材から柾目で大きな木材を切り出すには、大きな高樹齢の木が必要になります。環境保護の観点からいって大量には出回らないため、非常に高価で手に入りにくいのが問題点としてあげられます。このような一枚の木材でできているものを「無垢材」といいますが、これに対して接着剤などを用いて作り上げたものを「木質材料」と呼びます。
木質材料にはスライスした木材を何層にも重ねた合板などもありますが、まな板で使用されるものは小さい板材を並べて接着した「集成材」が広く使用されています。無垢材に比べて単価も安く、JAS規格として品質管理されており品質が安定していることから、一般の使用においては「集成材」のまな板でも充分使用に耐えることができます。こだわりの調理や長い期間使っていきたい場合に「無垢材」の柾目を選ぶなど、選択の幅を広げるのも一つの方法です。
基本的に心材に近い部分は建材として利用されることも多いため、まな板で心材を使用することは難しく、心材を使用したまな板は非常に高価になりがちです。通常まな板に使用される木材は辺材の板目が一般的なため、反りが起こりやすく、これを防止するために、反り方向が互い違いになるように貼り合わせた集成材をあえて使用している場合も多くあります。
家庭用の桐などでは比較的無垢材は手に入りやすいのですが木材の特性上、あえて貼り合わせた集成材のほうが反りに強い場合も多く、檜などのように無垢材が非常に高価な場合は集成材を選ぶことも問題ないと言えます。ちなみに集成材などでは木工用ボンドが使用されていますが、これは食物由来の素材であり、体内に入っても害はありません。
木はまな板になっても生きており、常に水分の吸収・乾燥を繰り返しているため集成材などではこの収縮・膨張によって割れや歪みが発生する可能性があります。自分が使用しているまな板の特性をよく知って、保管や使用方法に気をつけていくのが賢い方法でしょう。
木製まな板の場合、どのような素材でも長持ちさせるために守らなくてはいけないことがあります。木材は素材になっても呼吸をしており、そのまま生きているとも言えます。しっかりとした正しい使い方を守ることで、長い間使用することができますので、モノと同時に使う心も受け継いでいきましょう。
木材は自然素材ですから、漂白剤などの薬品に対して耐性がありません。黒ズミや変色などの原因となるので、殺菌消毒や漂白のために薬品を使うのはやめましょう。
直射日光にさらすと、温度変化と乾燥によりさらに反りやゆがみが発生する可能性があります。まな板の保管は日陰で行いましょう。
乾燥機を使用すると急激な温度変化と乾燥をもたらし、変形やゆがみの原因になります、場合によっては割れなどに繋がり、使用出来なくなる危険もあります。
火で炙ると焦げが発生だけでなく、火災などの原因になり大変危険です。
国産の素材は産地によってブランドもあり、まな板でも有名なものは非常に高値で流通しています。最近では産地ブランドのまな板などでも偽物なども出廻るようになってきました。加工のみ日本国内で行い、素材自体は輸入材を使用しているケースなどもあり、あまりにも安価なものなどは購入を避けたり、購入の際にはよく内容を確認する必要があります。
また海外から多種多様な木材が入ってきており、硬い素材から柔らかい素材まで選ぶことが出来るようになりました。しかし、建材などに使用される素材をそのまま、まな板に加工し販売しているケースも見られ、熱帯の広葉樹などの一部の素材などではアレルギーの原因物質を含んでいる場合もあります。
海外製品が全て悪いわけではありません。私達も、スペインなど優れた木材加工品を製造するメーカーから包丁用のハンドル材を輸入もしています。しっかりとした出所を記したものを選ぶことが大事なのです。包丁と同様に食材に直接触れる道具であるまな板。信頼の置けるメーカーや販売店のまな板を選び、安全な食生活と調理を楽しみましょう。