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もともと日本では刃物の研ぎ直しには天然砥石が使用されてきましたが、資源の枯渇と共に工業用などの用途から人工の砥粒を使用した人造砥石が用いられるようになります。
元々は人工のダイヤモンドを合成する中で発見された研磨材などを使用し、19世紀後半にアメリカで製造されたことから人造砥石の歴史が始まります。日本の刃物文化を育んだ優れた天然砥石をベースに、緻密な計算のもと製造される日本製の人造砥石は、日本製の刃物と共に世界に誇る技術と文化を有しています。
本記事で様々な人造砥石の組成と特徴を踏まえて、自分の包丁に合った砥石の組成を選んでいただくための参考にしていただくと幸いです。
一般刃物の研ぎ直し用の砥石で使用される人工の砥粒としてよく用いられる材料は、一般的に炭化ケイ素質研磨材(C・GC)、溶融アルミナ質研磨材(WA)、ダイヤモンド研磨材の3種類があげられます。
砥粒として用いられる素材は、砥粒自体の硬度はもちろんですが、刃物を研削していく中で、砥粒自身が砕けさらに鋭く生まれ変わる現象(自生作用)があり、角の丸くなった砥粒が砕けることで新たな研削能力が生まれていきます。この破砕性(砕けやすさ)と硬度、さらに耐摩耗性などにより最適な砥粒を選ぶ必要があります。
ケイ石とコークスを電気抵抗炉で反応させ炭化させることによって得られる砥粒で、一般的な材質表示としてカーボランダム(C)、グリーンカーボランダム(GC)と呼ばれます。
約2〜5ミクロンの六方体の角の立った砥粒で硬度はダイヤモンドや工業用で用いられる窒化ホウ酸(cBN)等に次いで高く、熱や酸やアルカリなどの薬品に強い安定した性質が特徴です。包丁用の砥石としては荒砥石や、一部中砥石の砥粒として使用されています。
ちなみにカーボランダム(C)の純度を上げたものがグリーンカーボランダム(GC)になり、硬度もC<GCとなります。
ボーキサイトを電気炉で溶融して得られる粉末状の白色酸化アルミニウムを用いた砥粒で、一般的な表記でホワイトアランダム(WA)と呼ばれ、その中でも細かく分類する場合は褐色アルミナ(A)、淡紅色アルミナ(PA)等に区分けされます。
砥粒は炭化ケイ素(GC)に次いで硬く、砥粒が丸みを帯びています。破砕性が優れており、研ぎ味が柔らかいことからハガネやステンレス系など刃物一般に非常に相性が良く、荒砥石、中砥石、仕上砥石用の砥粒としてオールラウンドに使用されています。ただし、結合材として用いられる素材によって性能や印象が変わるので、結合材の素材や硬さをよく吟味する必要があります。
言わずと知れた最も硬度の高いダイヤモンドを砥粒として用います。一般的に工業用の人造ダイヤモンド粉末や、天然ダイヤモンドの加工粉末等を使用しています。ダイヤモンド自体が高価なこと、また組成自体は炭素のため、熱に弱く焼き入れを行う炭素を含んだ刃物材料とは相性があまり良くないことがあげられます。
砥粒自体が非常に硬いため、一般的に超研削用の荒砥石の砥粒として用いられることが多いのですが、最近では技術開発により中砥石や仕上げ砥石用の砥粒としても用いられることも多くなりました。
砥粒を保持する母材として、人造砥石では結合材を用います。様々な結合材が用いられますが、一般刃物用として使用されるものとして大きく分けて4つが主流として扱われています。用途や砥粒の性質に合わせてこの結合材と製法を選びますが、結合材の性質によって研削の性能や刃当たりや研ぎ味が変わるため、包丁に合った砥石を選ぶ場合にはこの結合材について吟味する必要があります。
ただし、一般的に販売されている砥石ではこの結合材について表記されていない場合も多いので、よく調べる必要があります。以下で示すほかにメタルボンドのように合金を用いたものも存在しますが、一般の刃物用砥石では用いられることはありません。
砥粒と長石・可溶性粘土(セラミック質や硝子質)を調合し高圧で成型、乾燥させた後に中温(600℃)〜高温(1300℃)で焼結させます。焼結することにより硝子化した結合材により、砥粒の保持力に優れ、温度による本体の変質が少ないことも特徴。
また、適度に気孔が分布することから、貼り付き感が少なく研磨力も非常に優れています。吸水性があり水切れしにくいのですが反面吸水させるまで時間がかかる場合もあります。一般的にセラミック砥石と呼ばれているものはこれにあたります。粒度分布は#36〜#1500(高温焼成時)から#3000(中温焼成時)となります。
※注意:商品名にセラミックと称していてもこの製法で製造されていない場合もあります。
マグネシアオキシクロライドというセメント系の接合剤を使用し、砥粒と練り固めた後乾燥させたものです。滑らかな研ぎ味があり、砥粒がよく出て研削性が良いとされています。吸水性が低いため水切れが起きやすいのですが、その分水に浸ける時間はそれ程必要になりません。ただし、経年変化の変質が発生しやすく、割れなどには注意が必要です。
粒度分布は#400〜#6000でハガネと軟鉄の境目を出す地紋掛けに用いられる場合も多く、仕上げ等に適しています。
ベークライト製法とも呼ばれ、結合材としてフェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂を使用し、200℃程度の低温で固めます。砥粒自体に熱による変性が起きにくく、品質にバラツキが少ないことからが特徴です。
ただし樹脂自体に弾性があることから研削性は劣るが、きめ細かい研ぎ味があります。吸水性の無いものが多く、水を掛けるだけで使用できますが、水切れも発生しやすいので、常に水を掛けながら使用したほうが良いとされます。粒度分布は#600〜#8000で、仕上げに用いられることが多い砥石です。
基本はレジノイド製法と同様の樹脂である、合成ゴムや天然ゴムを結合材に用い180℃程度の低温で焼成します。ゴムの弾性を活かした使い方となるため、基本的には刃物研ぎ用途に用いられることは少なく、サビ取り消しゴム等に用いられます。
結合材を使用せず、クロムメッキなどのメッキと共に砥粒を基材に固着する方法で、砥粒を焼き固める製法とは全く異なります。一般的には砥粒にダイヤモンドや窒化ホウ酸(cBN)等で使用され、切削性の強さが特徴となります。これは砥粒自体が結合材の中から突出しているわけではなく、基材に砥粒が固着していることによるもので、刃物に対して砥粒が大きく刺さり込む状態になります。
一般刃物用では荒砥石などで用いられることが多いのですが、最近では中砥石などでも用いられています。しかし砥粒がダイヤモンドの時はハガネ系包丁との相性等の問題があり、使用する場合は用途をしっかり考える必要があります。