2022.08.25 ・  /

【大河津分水通水100周年】記念ナイフ開発ストーリー #01

大河津分水通水100周年を記念するナイフの制作ストーリーをご紹介します。

2022年8月25日、大河津分水は通水100周年を迎えます。
藤次郎は、この節目を記念するナイフを制作いたしました。

1 大河津分水に感謝を込めて

大河津分水は、日本一の大河・信濃川の分水路です。
信濃川の水が越後平野に入る前に、その一部を日本海へ流すことで、越後平野を水害から守り、安全な暮らしや多くの恵みをもたらしてきました。

大河津洗堰

大河津洗堰。信濃川本川に流す水量をコントロールしています。

藤次郎がこの地に創業し、ものづくりを続けてこられたのは大河津分水のおかげでもあります。
そこで、通水100周年を記念するとともに、改めて感謝の気持ちを表すために、大河津分水をモチーフとしたナイフ制作に取り組むことにしました。

2 大河津分水らしいナイフとは何か

制作を担当したのは、藤次郎ナイフアトリエの職人・松川。
制作にあたり、まずは大河津分水について理解を深めようと信濃川大河津資料館を訪れました。

資料館で目の当たりにしたのは、第一に信濃川の雄大さです。
さらに、その莫大な水量を分け、日本海へと流れていく大河津分水路には圧倒されるものがあり、途方もない水の様子を自分なりに表現したいと考えました。
そして、平時は悠々としている水流も、一度水かさが増えると表情を一変させることを知り、そのような怖さも、今回のナイフ制作の重要な要素として入れていこうと決めました。

平時の大河津分水の様子

平時の大河津分水の様子


増水時の大河津分水の様子

増水時の大河津分水の様子

目指すのは、「深み」を感じるナイフです。
膨大な水の流れの、沈み込んでいくような深さを表現してみたい。
そして、単に美しいナイフにするのではなく、荒々しさや怖さも伝わる、奥行きのあるものに仕上げたい。
この2つの思いを持って、制作に取り掛かりました。

3 「深み」を感じるナイフを目指して

水の深部を表すのは、シースです。
青い染め液を用い、縁に近づくにつれ暗さが増すよう、黒を少しずつ混ぜて全体の深みを出しました。
実は、この染める作業は今回の工程でもっとも苦労した工程となりました。
思い通りに染まったように見えても、仕上げていくうちに川というより海の底のような色になったりと、失敗もあり、理想の色を実現するまで何度もやり直したそうです。

大河津分水通水100周年記念ナイフのシース

とことんこだわったシースづくり。縁に近くなるにつれ、色が暗くなっていくのが分かります。

ナイフの刀身は、分水路に生息するウグイという魚を模した形状にしました。
資料館において、ウグイを見た時に「これだ」と思ったそうです。
どんな場所でも生命力強く生きるウグイは、今回のテーマにも合致していました。

大河津分水にも生息するウグイ

大河津分水にも生息しているウグイ。過酷な環境下でも生きていける生命力があります。

見た目からは分かりませんが、鋼材にもこだわっています。
青紙スーパーを芯材とする3層構造の材料を選択し、硬くて切れ味が良く、ラフな使用にも耐えるタフさを出しました。

大河津分水通水100周年記念ナイフの形状

ウグイを模した形状

ヒルト(和包丁でいう桂の部分)に使うのは純銅です。
表面を荒らしたあとで、銅を硫黄と反応させて黒っぽい色を出し、今度は表面を磨きます。
こうすることで、銅の表面に細かく複雑な黒い模様がうっすらと残り、綺麗なだけではない、味のある仕上がりになります。

大河津分水100周年記念ナイフのヒルト

ハンドル材はジリコテです。
以前から気になっていた木で、暗めの色や硬さが気に入り、今回のナイフの雰囲気に合うのではないかと採用しました。
硬さの割には加工がしやすく、魚がモチーフの刀身にあわせた滑らかな形状のハンドルを作ることができました。

大河津分水100周年記念ナイフのハンドル

ハンドルには中米原産のジリコテを使用。ギターのボディや高級家具に用いられる、希少な木材です。

4 ウグイナイフの完成

大河津分水通水100周年記念「ウグイナイフ」

ナイフ制作に関して経験を積んできている松川ですが、今回の取り組みは自身にとって新しいものだったそうです。
切れ味が良い、使いやすいといった観点とは別に、大河津分水に感謝するために何ができるかを考え、テーマを設定し、ナイフの色や形状、一つ一つに意味付けをしながら制作にあたることは純粋に楽しく、やりがいを感じたと言います。

このナイフを見る人に、どんなところに注目して欲しいかを聞くと、「水深の深いところと、そこを泳ぐ魚をイメージしてもらえたら良いなと思う」とのこと。
ナイフにタイトルをつけるとしたら、「ウグイナイフ」にしたいそうです。

このナイフは、8月25日から藤次郎ナイフギャラリーで展示いたします。
大河津分水の偉大な功績に感謝するためのナイフ制作は、藤次郎に、大河津分水について改めて学び、考える機会を与えてくれました。
同じように、このナイフをきっかけとして、大河津分水について関心を持つ方が増えれば嬉しく思います。

※製作したナイフの販売は行っておりません。予めご了承ください。

 


 
藤次郎オープンファクトリー

営業時間:10:00 – 17:00 (併設のショップは18:00まで営業)
住所:〒959-0232 新潟県燕市吉田東栄町9-5
電話番号:0256-93-4195
定休日:日曜・祝日
入場料:無料