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藤次郎株式会社
天然砥石の魅力

天然砥石の魅力

人類が初めて使用した道具は石とされています。人々の歴史の中で、道具を加工する際に石を用いることは自然であり、金属が発明されてからも、金属加工に最も適した道具として石が使用されてきています。まさに有史以来人間にはなくてはならない道具と言えるでしょう。
日本では火山活動など地殻変動が盛んであることから、地層の隆起などが起きやすく古くから良い天然石が採掘されていました。縄文時代の遺跡からは砥石として研磨に使用されていたと考えられる岩なども見つかっているほか、奈良時代では正倉院に納められている文献にも既に各土地名産の砥石の名前が記されています。良い砥石を産出する産地は、良い刃物や美術工芸品も生み出されました。この優秀な砥石に合わせ、日本の刃物技術が進歩してきたともいえ、独自の刃物文化と技術を支え続けていたのは、優秀な砥石によるところが非常に高かったのだとも言えます。

現在では昭和初期に1000近くにも達していたとされる、天然砥石の採掘場も近代化の波に押され、人造砥石等の台頭から徐々に衰退し、現在では良質な天然砥石の採掘を行っている産地も非常に少なくなっています。このため取引される天然砥石も非常に高額になっており、愛好家によって使用される希少な砥石と化しているのが現状です。

既に人造砥石の製造技術もあがり、天然砥石を超えた砥石も多数出てきています。藤次郎株式会社としては一般的な包丁を研ぐには天然砥石を使用する必要は無いと考えていますが、刃物にこだわり行き着くところはやはり良質の天然砥石であり、 それを選ぶ機会に参考になる情報を掲載させて頂きます。

天然砥石と人造砥石

天然砥石のイメージ

天然仕上砥石の中でも京都産の仕上げ砥石は「合砥 (あわせど)」と呼ばれ、刃物に合った砥石を選ぶことが重要とされています。
元来日本では刃物を研ぐには、各産地で採掘される岩石を砥石として用いていました。地層や環境などによって品質が左右される天然砥石は、高品質のものは高値で取引され、高品質な砥石は産出する産地の名前で呼ばれることが一般的になっていました。大村砥や門前砥、青砥、内曇、天草砥、名倉砥などは現在でも知られた存在です。これらの砥石から自分の包丁に合う物を探し、一生使っていくことが一般的だったのです。

近年では質のいい人造砥石が市場に出回るようになりました。安価で品質が安定した人造砥石が出回ることで、天然砥石の採掘自体が減り、質のいい天然砥石は非常に高価になり、また良質なものは入手が困難になってきています。確かに良質な天然砥石は仕上がりが違い、仕上げなどの違いは一目瞭然です。これは砥石の中の砥粒の形状によるところが大きいと言われ、人造砥石の砥粒は角のある六角形状をしていますが天然砥石の砥粒は角が取れた楕円形状をしています。これは海中に生息する放散虫という動物性プランクトンなどの遺骸が化石化し、粘土と混ざったことにより生まれており、これが優れた仕上げを生み出しているのです。また、天然砥石で研ぐと刃先硬化作用があるとされ、かえりが出にくいともいわれています。
現在では、弊社でも天然砥石を保有していますが製造に用いておらず、量産品の仕上げは専ら布バフや革フラップなどが主流となっています。あえて天然砥石を使用する場合は、砥粉を高級和庖丁のぼかし仕上げなどに用いる程度です。

現在では砥石メーカーの努力により、天然砥石を越える品質の砥石も誕生しており、品質にムラがあり良い砥石を選ぶのにそれなりの目と勘が必要となる天然砥石を選ぶよりは、しっかりとした人造砥石を選ぶ方が一般的な使用ではお勧めです。弊社では、常に研ぎを行い、こだわりのある仕上げが人造砥石で仕上げられないと感じられるレベルまで達した場合、初めて必要となるものだと考えており、毎日の調理や一般的な業務では必要は無いと考えています。

天然砥石の種類と選び方

人造砥石が製造される前には日本全国で様々な砥石が産出されていましたが、現在では採掘も終了している産地も多く、流通量も限られています。このため価格に差があり、良質で形が整っているものは非常に高価です。同じ石でも天然物なので当たり外れもあり、実際に現物を触った上(可能であれば刃を当てさせてもらう)で購入を考える必要があります。
ここでは現在手に入れることができる代表的な天然砥石を示します。上質なものに関しては既に手に入れることも難しい場合もあります。

代表的な産地と名称

名称 産地 日本刀研磨
工程の名称
特徴
平島砥 長崎県大村 砂岩でできた灰色の荒砥で、荒砥の中でも特に粗い目を持つ砥石。砥汁がよく出て短時間で刃卸しが可能。
大村砥 和歌山県大村
長崎県大村
金剛砥 細粒砂岩で灰色の荒砥。長崎の大村砥は既に採掘を終了しており現在流通するものは紀州(和歌山)産の目透砥がほとんどだが、こちらも生産は終了している。
笹口砥 長崎県 金剛砥 砂岩でできた灰色の荒砥で、平島砥よりも軟らかい。
伊予砥 愛媛県伊予郡 金剛砥 荒砥から仕上げ砥まで分布。風化した雲母安山岩で白色から褐色の波紋を持つものがあり、歴史上最も古いブランド砥石として知られる。
備水砥
備水砥 熊本県 備水砥 熊本県で産出される凝灰岩。中砥として用いられ産出が少なくなった伊予砥の代わりに用いられる。この備水砥の中でも特に天草砥が有名。
天草砥 熊本県天草 備水砥 熊本県で産出する備水砥の一種で、備水砥より粗目だが中砥として用いられる。凝灰岩のみの上白と、凝灰岩に赤い層が波紋状に混じった粗目の赤 (虎砥)がある。
常見寺砥 福井県 備水砥 凝灰岩を主とした緻密な中砥石で「寺中砥」と呼ばれた。
江戸時代に有名だった浄慶寺(浄教寺)砥石とも採掘場所が近いが同じ鉱脈の物かは不明。
改正名倉砥
改正(青)砥 山形県東村山郡 改正名倉砥 良質な青い中砥。軟らかめで中名倉の前に研磨を行う中砥。現在は既に閉山となり良質な青いものは流通しておらず、現在は茶色のものも出回っている。
名倉砥 愛知県三河 中名倉砥
細名倉砥
凝灰岩を主にした中砥〜仕上げとして用いられ、「三河白名倉」と呼ばれる。また端材は仕上げ砥石のドレッシングとしても使用する。
対馬砥 長崎県対馬 対馬産出の中砥〜仕上砥で、黒く「黒名倉」とも呼ばれる。山と海底からも産出し、海底産出のものは若干柔らかめ。粉にして砥石目を消すのにも用いる。
丹波青砥 京都府亀岡 変質粘板岩の中〜仕上砥。油分を含みやや硬め。包丁では仕上げ用として用い、最近では人工の青砥も出回るようになった。
佐伯砥 京都府 丹波青砥の一種の中砥。青砥に比べ若干キメが粗く、全体的に軟らかめ。
門前砥 京都府 丹波青砥の一種で、赤味を帯びており、やや軟らかめな研ぎ味を誇る。水を含みやすく研ぎ汁がよく出るので研ぎやすいが、割れに注意する必要がある。
沼田砥 群馬県 珪長石を主とした岩脈の風化したもので荒〜中砥。その色から虎砥とも呼ばれる。流通量の少なくなっており、近い色の備水砥を沼田砥として販売しているケースもある。
但馬砥 兵庫県 兵庫県で産出する荒〜中砥。灰色の粘板岩で水の吸収が少なく硬めだが、研磨力があり刃が付きやすいとされる。
夏屋砥 岩手県 岩手県産出の荒〜中砥。砥粒は粗目で軟らかい。ハガネ系包丁の中砥としては食いつきが非常に良い。
五十嵐砥 新潟県 凝灰岩の中砥。備水砥よりもやや硬質。白色と青水色の砥石で研磨力と粘りが両立していたとされる。
会津砥 福島県 凝灰岩からなる中砥。五十嵐砥と同様に硬質で白色と青水色があり、夏場は原石を掘り冬場に成型する季節に合わせた製造を行っていた。
合砥 京都府 内曇砥 地殻変動の影響から京都・滋賀でのみ産出する粘板岩の仕上げ砥で、非常にきめの細かい仕上がりから刃物の仕上げには無くてはならないとされる。刃先の硬化作用があるとされ、地金とハガネ部の境を際立たせる仕上がりは人造砥石では再現できない。
※ほとんどが採掘終了しているため、このリストは市場で手に入れられることを保証するものではありません。

合砥の種類と区分

合砥は産出する地域名称が付いています。鎌倉時代に良質な砥石が京都の西北部の菖蒲谷の山中で発見され、以後日本の砥石の最高峰として君臨しています。発見者であり採掘の総元締めであった本間藤左衛門時成が管理した砥石採掘の鉱脈を「本間の山」と称していたことから、この産地はいつしか略され「本山(もとやま)」と呼ぶようになりました。最近では京都一帯で採掘されるものを「本山」と称する場合もあり、この流れから元々の「本山」を「正本山」と呼ぶ場合もあります。さらに採掘は進み代表的なものとしては梅ヶ畑(東の山)方面[中山(本山)・菖蒲谷・奥殿・大突・鳴滝向田・高雄など]、愛宕山方面[大平・奥の門・水木原・馬路・八箇・新田山など]、八木・園部方面[大内・八木ノ島・芦谷など]、京都北部方面[弓削・富田日照山・美山など]、滋賀北部方面[高島妙覚山・相岩谷など]など、それぞれに特徴のある合砥があります。このうち梅ヶ畑付近で産出するものを「本口成」、愛宕山周辺で産出するものを「中口成」、京都北部方面で産出するものを「合口成」と呼ぶ場合もあります。

また、この京都の合砥特有の地層の層は、層ごとに性質が違い産地によっても構成が違います。各々の層に名前が付くほか、層それぞれ、色や模様の組合せなどによって細かく名称が付きます。この表では一般的によく使われる名称をまとめてあります。

層による名前

名称 特徴
天上巣板 天井巣板ともいう一番上に位置する層。細かい孔がある。内曇砥などで使用。
八枚 天井の下に位置する層。
千枚 硬質の層。
戸前 比較的厚めに産出される層で、さらに敷戸前、本戸前、戸前、天上戸前と区分けされる。
合さ 「あいさ」と呼ぶ。硬質で研磨力があるとされる層。
並砥 比較的厚めの層で安定した成分とされる層。
大上 敷巣板の上に位置する層。並砥として扱われる場合もある。
敷巣板 一番下の層で、天井と同様巣が入る。

色による名前

名称 特徴
黄板 黄色や卵色のもの。
卵色 黄色でも特に薄めのもの。
色物 黄褐色や赤紫のもの。
青口 青色が揃ったもの。
白色で軟質のもの。
赤ビン 濃い赤色で軟質のもの。

模様や質による名前

名称 特徴
梨地 戸前の層で黄色の梨地模様。
巣板 巣板とは層から高圧ガスが抜けた後があり、細かい孔を有する。
巣無し 巣板の中でも巣が入っていない極上品。
蓮華 巣板の中で白い素地に赤い蓮華模様が入る。
紅葉 巣板の中でも赤や黄色の模様が入るもの。
烏 (からす) 合さの層で黒いまだら模様入り。
鯰 (なまず) 黄灰色のまだら模様。軟質のものが多い。
環巻 渦巻きのような模様。
羽二重 白くきめが細かいもの、戸前や八枚にも分布する。
曇り 天井巣板の中の内曇りの高級品で、刀剣研磨に使用されるもの。
畳敷き 畳のように筋がたくさん入ったもの。

サイズによる名前

名称 特徴
大判 230× 90mm以上
二十四切り (24型) 218× 78mm
三十切り (30型) 205× 75mm
四十切り (40型) 205× 75mm (欠けなどがあるもの)
六十切り (60型) 195× 70mm
八十切り (80型) 180× 63mm
百切り (100型) 160× 58mm
サン型 20.5× 40〜65mm
レーザー型 136× 82mm
昆布砥 14.5×10.5mm
コッパ型 砥石を規定の大きさにカットする時に出た切れ端、定形外品。
原石 砥石を切り出したそのままの状態。未整形品のこと。

天然砥石の選び方

天然砥石はまさに天然の石ですので、非常に品質にバラツキがあります。販売されている形態も成型したもの、コッパ(出来型)と呼ばれる破片や採掘したままのもの、既に使用されている中古ものと千差万別です。購入する場合は石自体のキズや筋を見る必要があるほか、研いで下の層が現れると研ぎ味が変わる場合もあるため、積層している下の層なども見る必要があります。良い砥石でも割れたものなどは刃を当てる砥面以外を樹脂や漆、卵白などで固めて使用する方法もあります。

硬軟の区別の方法

見分けの方法
叩いたときの響く音 高音 低音
体積に対する全体的な重量 重い 軽い
水の吸水するスピード 遅い 早い
研ぎ汁の色 黒い 白い
※あくまでも目安のため、砥石によってはこの目安が当てはまらない場合もあります。
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